ローラーダイとは、コイン製造時に使う金型の一種です。1600年代~1700年代のヨーロッパで使用され、一般的な金型と使い方が異なります。そこで、ローラーダイの仕組みと、この方法で作られたコインを紹介します。独特の形状です。
ローラーダイの仕組み
一般的なコイン製造方法は、下の通りです。すなわち、刻印前の金属に上下から圧力をかけて、デザインを刻印します。
一方、ローラーダイを使った製造方法は、下の絵の通りです。圧力でデザインを刻むのは、一般的なコインと同じです。しかし、ローラーであるという点が異なります。ちなみに、ダイ(die)とは、金型という意味です。
では、ローラーダイについて、写真や絵を見ながら具体的に確認しましょう。絵や写真は、全て『The Art of Craft of Coinmaking-A History of Minting Technology』からの引用です。下の写真の上側に、ローラーダイがあります。そして、その下に刻印後にできるデザインが表示されています。
もう少し詳しく見ましょう。赤枠2の部分に、デザインが刻まれています。赤枠1の部分を機械に差し込んで、回転させる仕組みです。
下は、刻印された金属の様子です。両面同時に刻印していきます。細長い金属に、数多くの刻印が打ち込まれた様子が分かります。
さて、上の金属ですが、コインになっていません。細長い金属にデザインを描いただけです。
これをどうやってコインにしましょうか。それは、「巨大なハサミで切り取る」です。コインの刻印に沿って、円形に切り取ればコインになります。
下の絵は、コイン製造工場の様子を描いたものです。製造方法はローラーダイではなさそうですが、巨大なハサミが登場しています。左下にいる人が持っているのが、ハサミです。確かにハサミですが、枝切りばさみか?と思えるような巨大な作りです。
文房具のようなハサミでは、金属を切ることはできません。そこで、このような巨大なハサミになったのでしょう。なお、現物のコインを見ますと、断面(側面)はとてもきれいでツルツルであり、刻印はありません。
ローラーダイで作られたコインの特徴
では、ローラーダイで作られたコインの特徴を確認しましょう。
- コインが反ったり、波打っている
- コインにヒビが入っている
この記事の下で、ローラーダイで作られたコインを紹介しています。正面からの撮影でやや分かりづらいものの、コインの中央部にヒビが入っている様子が分かります。その他、大きく反ったり、割れ目ができたり、波打ったりしている場合もあります。
ローラーダイの場合、真っすぐでゆがみのないコインを作るのは難しいようです。
よって、「コインは曲がっていない方が良いし、ヒビがあるのも嫌だし、きれいにピカピカしているものが良い」という場合、ローラーダイで作ったコインはコレクションの対象外になるかもしれません。
一般的に、これからアンティークコインの世界に入ろうという皆様の場合、金貨の美しさに惹かれることでしょう。そして、金貨を眺めているうちに、銀貨の良さにも気づきます。銀貨をさらに調べていると、ローラーダイの魅力にも気づくことがあるでしょう。
よって、これらのコインの収集家は、中上級レベルの皆様が多いのでは?と思います。
大量生産向きの製造方法
では、なぜローラーダイでコインを作ったのでしょうか。上下から打ち付けてコインを作る場合に比べて、コインは曲がりやすいですし、ヒビも入りやすいです。あまり良いことがないように見えます。
これは、筆者の予想ですが、大量生産に向いていたからではないでしょうか。下に、写真を再掲します。金属の板をローラーに挟んで通せば、下の場合、一気に9枚のコインの刻印ができました。あとは、切れば完成です。
時代が下って技術が発展すると、ローラー式でなくても大量生産しやすくなり、この製造方法は消えていったのかもしれません。
フェリペ4世の50レアル銀貨
では、ローラーダイで作ったコインを紹介します。
コインのスペック
- 発行国:スペイン
- 額面:50レアル
- 年号:1635年
- 材料:銀
- 直径:74mm
- グレード:UNC
この銀貨の特徴は、何と言ってもその大きさです。直径が74mmもあります。74mmという数字ではイメージが湧きづらいです。そこで、500円硬貨と比較しましょう。
- 50レアル銀貨:74mm
- 500円硬貨:26.5mm
比較しますと、直径は3倍ほどです。すなわち、面積は9倍くらいです。さらに、厚さもあり、しかも銀です。持ち上げると、ずっしりと重量感を感じることができます。また、フェリペ4世の50レアル銀貨は、破格の高値がついています。1635年のこのコインは、世界に12枚しか存在しないためです。
ちなみに、このコインをよく見ていただくと、ローラーダイの特徴がはっきりと出ています。下側の写真の真ん中やや右側に、細かいひび割れが多数あることが分かります。
また、正面からの写真でやや分かりづらいものの、コイン全体が波打っていることも分かります。