1901年~ 米州

ロードアイランド300周年記念銀貨【米国】

2022年6月6日

アメリカ合衆国に、ロードアイランド州という米国最小の州があります。その州都プロビデンス市設立300周年を記念して、1936年に記念銀貨が発行されました。そこで、デザインや歴史、さらには発行をめぐるゴタゴタを紹介します。

銀貨のデザイン

ロードアイランド300周年記念銀貨

ロードアイランド300周年記念銀貨

コイン画像に、白い汚れ等が点在しています。これはコインの傷等でなく、スラブ(プラスチックケース)に付着した汚れです。

コインのスペック

  • 額面:50セント
  • 年号:1936年
  • 材料:銀
  • 直径:31mm
  • グレード:UNC/FDC(PCGS-MS64)

上のコインは、フィラデルフィア造幣局で作られました。各造幣局には独自の印(ミントマーク)があり、これを見れば、どこで作られたかが分かります。

当時のアメリカには、3つの造幣局がありました。サンフランシスコ、デンバー、フィラデルフィアです。そして、サンフランシスコで制作すると、Sのマークが刻印されました。デンバーはD、フィラデルフィアは何もなしです。上のコインにはミントマークがありませんので、フィラデルフィアで作られたと分かります。

ちなみに、下のコインはサンフランシスコ造幣局の製造です。赤枠部分にSの文字が刻印されていることが分かります。

表側のデザイン

では、表側全体のデザインを確認しましょう。2人が描かれています。右側はRoger Williams(ロジャー・ウィリアムズ)、左はインディアンです。

Roger Williams(1603?-1683)

イギリスからアメリカに渡った植民者です。また、信教の自由を早くから主張していた先駆者でもあります。

彼は、自身の考えをネイティブアメリカンにも適用しました。例えば、イギリス国王の許可があればアメリカ大陸を自由に使えるのではなく、所有者であるネイティブアメリカンから購入して初めて、土地所有が有効になる、などです。

この先駆的な考え方は、当時の入植者コミュニティと衝突しました。そこで1636年、有志とともに新たに植民地を建設しました。これが、ロードアイランド植民地です。

コインのデザインに戻りましょう。ロジャー・ウィリアムズは、カヌーに乗っています。そして、右手を挙げて挨拶しており、インディアンに友好的な姿勢だと分かります。左手に持っているのは、聖書です。

左側にいるインディアンは、岸に立っています。左手に杖を持ち、右手は肘から先を水平に上げています。彼らの後ろにあるのは、海から上る太陽です。信仰の自由を示します。

周辺にある文字は、「IN GOD WE TRUST 1936 RHODE ISLAND」です。”IN GOD WE TRUST”は、アメリカのコインでしばしば使われてきた表現です。「我々は神を信じる」という趣旨です。

ロードアイランド州の位置

ここで、ロードアイランド植民地の位置を確認しましょう。現在は、ロードアイランド州となっています。そして、州都はプロビデンスです。

下の地図は、アメリカ北東部です。真ん中にニューヨークがあります。その北東(右上)に、ロードアイランド州(当時はロードアイランド植民地)があります。

ロードアイランド州

画像引用:google map

下は、ロードアイランド州を拡大したものです。中心都市であるプロビデンスは、州の北東部に位置しています。

ロードアイランド州

裏側のデザイン

次に、裏のデザインを確認しましょう。写真を下に再掲します。

ロードアイランド300周年記念銀貨

真ん中に、碇(いかり)があります。これは、現在のロードアイランド州の紋章です。そして、周囲に文字が書かれています。

内側にあるのは、「HOPE」と「E PLURIBUS UNUM」(エ・プルリブス・ウヌム)です。Hopeは「希望」、「E Pluribus Unum」は「多くの州で作られた統一国家」すなわち、アメリカ合衆国を示しています。

外側の文字は、「UNITED STATES OF AMERICA HALF DOLLAR」です。「アメリカ合衆国 0.5ドル」という意味になります。

設立300周年記念のコインだが

ここで、興味深いことが分かります。この銀貨は、プロビデンス市300周年を記念して発行されました。しかし、どこにもプロビデンス市300周年の文字が出てきません。

記念コインなのに、その対象が全く明記されていないという、何とも不思議なコインです。

コイン発売時のトラブル

では、この記念コイン発行時のゴタゴタに移りましょう。このコインは全部で5万枚ほどが製造されました。造幣局ごとの製造枚数は、以下の通りです。

  • フィラデルフィア:20,013枚
  • サンフランシスコ:15,011枚
  • デンバー:15,010枚

これだけあれば、ロードアイランド州周辺のコレクター全員にコインを販売できる…はず。気になる販売価格は、1枚1ドルでした(郵送販売は1.5ドル)。ところが、発売と同時に完売御礼。コレクターがコインを買えない事態となりました。

販売側は、買い注文が殺到したためなどと理由をつけました。しかしその後、数多くのコインディーラーで1.5ドルよりも大幅に高い価格で販売されており、コレクターは「おかしい」と簡単に気付ける状態だったようです。そこから、コインの価格操作に精通した人などが抗議して大騒ぎ。

また、コイン発行を担った組織委員会は、3つの造幣局でそれぞれ100枚の「Specimen」を製造し、3枚1組で販売したそうです。しかし、そのコインセットは現代のマーケットで流通しておらず、また、プルーフ状の輝きを持ったコインも見つかっていません。すなわち、Specimenのセットは販売されていない可能性があります。

これら300枚の銀貨は、どこに消えたのでしょうか。あるいは、そもそも販売されなかったのでしょうか。

さらに、300周年記念イベント終了を受けて、組織委員会は解散しました。その会計報告によると、利益は24,000ドルでした。現在価値で考えても結構な額ですから、100年近く前の24,000ドルというのは大変な金額です。

このうち、3分の2はロジャー・ウィリアムズの像建設費用として支出されました。残りは…使途不明金で行方不明。あれやこれやと、闇が垣間見えます。

アメリカ初の奴隷禁止令

最後に、ロジャー・ウィリアムズとロードアイランド州にまつわる話を紹介します。アメリカ初の奴隷禁止令成立(1652年)です。

アメリカの奴隷制度廃止といえば、1863年にリンカーン大統領が奴隷解放宣言を出したのが有名です。ロードアイランド州の奴隷禁止令は、それよりも200年以上前の話です。もっと評価されても良いはずですが、日本での知名度がありません(アメリカでも、認知度が低い模様です)。

その理由は、いくつかあるようです。

  • 禁止令を作ってはみたけれど、強制力がなかった模様
  • 適用地域が限定的だった
  • 奴隷を所有できた(10年未満)
  • 後に、奴隷を認める法が作られた
  • 18世紀のロードアイランド州は、奴隷貿易の中心地だった など

奴隷制度廃止を打ち出したのに、後に奴隷貿易の中心地になってしまったことは、残念なことです。しかし、禁止令の試みや思想は先駆的ですので、もう少し認知度があっても良いように思います。

このコインをきっかけに、1600年代のアメリカ北東部の模様を、少しずつ勉強することもできそうです。

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