リストライク(再鋳貨)という言葉を聞くと、再発行コインだと分かります。しかし、リストライクには意味がいくつかあります。そこで、それぞれの違いなどを紹介します。
リストライクの種類
最初に、2つの意味を紹介します。
リストライクの意味2つ
一つは、「コインの製造終了後、何年も経過してから、当時使っていた刻印(金型)を再利用してコインを作る」場合です。二つ目は、「新たに刻印を作るものの、そのデザインを以前製造したコインと同一にする場合」です。
一つ目の方が、厳しい定義でしょう。刻印を使い込むと刻印が削れていきますので、デザインは次第にぼんやりしてきます。それを再度使ってコインを作るとなると、新品なのにデザインの明晰さに欠けてしまいます。
また、使用済みの刻印は捨てられることもあったでしょう。よって、一つ目のリストライクを作るには、「当時の刻印が保存されており、しかも、使い込まれていない」ことが必要です。
それに比べれば、二つ目の方が難易度が低いです。後年になって刻印を新規に作れば良いからです。
なお、二つ目の意味のリストライクは、大量に作られることがあります。この場合、コインとしての付加価値はありません。金や銀の地金と同じ価格で取引されます。
その一方で、数量限定で製造される場合もあります。この場合は、希少性が高くなります。現存数が少なければ、希少価値はさらに上がります。
私人が作ったリストライク
なお、広義のリストライクを見ますと、こんな意味もあります。
リストライクの意味3
私人が、プロモーション目的等で勝手に再発行
これは問題かもしれません。この場合のリストライクは、レプリカや偽造とどこが違うのでしょうか。極端な例として、アッパーカナダのハーフペニーを紹介します。
アッパーカナダのハーフペニー
下の銀貨は、リストライクです。しかし、オークション等でコイン紹介を見ると"Restrike"という感じでダブルクォーテーション("")がついている場合があります。すなわち、要注意ということです。その理由は…(下に続く)
コインのスペック
- 額面:1/2 ペニー
- 年号:1794年
- 材料:銀
- 直径:30mm
- グレード:PF FDC
実は、コインの裏に書かれている「COPPER COMNAPY OF UPPER CANADA」(アッパーカナダ銅会社)は存在しなかったようです。そもそも、この銀貨は通貨として発行されてさえいません。当時の造幣所スタッフの作品に過ぎませんでした。これを作った理由は不明です。練習で作ったのかもしれませんし、自分の技量を示すためだったかもしれません。
その刻印が捨てられずに残されており、足りない部分を新たに作り、19世紀になってリストライクとして商業目的で販売されました。
貨幣(コイン)として発行されていない、造幣所スタッフが作った作品。それが後年に私人によって再生産された、しかも、リストライクのコインとして商業販売された…要するに、詐欺です。しかし、コインの世界でリストライクとして受け入れられ、現在に至ります。
ただし、販売者やオークション主催者によっては、これを Restrike でなく "Restrike" としてダブルクォーテーションを付けています。いわくつきのリストライクですよ、という注意喚起でしょう。コイン業界の興味深い一面です。
ちなみに、アッパーカナダとは、下の地図の矢印の先部分です。オレンジ色になっている部分をアッパーカナダと呼び、当時イギリスの植民地でした。
画像引用:Wikipedia
次に、大量生産されたリストライクと、希少性のあるリストライクを比較しましょう。
大量生産されたリストライク
下の画像は、オーストリアのフランツ・ヨーゼフ1世の4ダカット金貨で、リストライクです。第48回日本コインオークションに出品されました。
コインのスペック
- 額面:4ダカット
- 年号:1915年
- 材料:金
- 重量:13.76g
- グレード:PL FDC
グレードは「PL FDC」です。すなわち「プルーフのような輝きを持っていて、完全未使用品」ですから、とても高品質です。そして、落札価格は64,000円でした。
さて、ここで、コインでなく金(きん)としての価値を計算しましょう。このコインの重量は13.76gで、金の純度は98.7%です。すなわち、金の重量は13.58gです。金相場は、日々変化します。当時の価格は1グラム4,500円くらいでした。この条件で金としての価格を計算しますと、以下の通りです。
13.58g×4,500円×1.08(消費税)=65,999円
(当時の消費税率は8%)
すなわち、この金貨は、地金の価値よりもわずかに安く落札されました。この金貨を買おうとして入札した人は、金地金価格を知った上でオークションに参加していたと予想できます。
なお、落札者が実際に支払う金額は、落札額に手数料等を含んだ金額です。手数料の額は、落札額の10.8%(消費税含む)ですから、実際に支払う額は70,912円になります。
リストライクのコインを買うときの留意点
以上の通り、リストライクの中でも大量生産されたものは、プレミアムが付きません。このため、購入する前に、大量に製造されたかどうかを確認する必要があります。
コインカタログ等で取引価格が「BV」となっていたら、それは地金価格で取引されています。BVとは、bullion value(=地金の価格)という意味です。
超有名なリストライク
上の例とは逆に、超高額になるリストライクもあります。例えば、現存数が極めて少ない人気コインの場合です。
代表例は、アメリカ合衆国の1804年銘のシルバーダラーです。デザインがわずかに異なるリストライクが、何種類かあります。これが、2009年のオークションで230万ドルで落札されました。当時の為替レートで2億円くらいです。リーマンショック後の混乱期に、この価格。
現存数が圧倒的に少ないこと、デザインが良いこと、状態の良さなどが評価されたのでしょう。
画像引用:USA COIN BOOK
希少価値があるリストライク
1804年銘のシルバーダラーは、極端な高値です。一般の人でも手に届く範囲で、希少価値が高いリストライクを紹介します。英領インドで発行された15ルピー金貨です。
コインのスペック
- 額面:15ルピー
- 年号:1918年
- 材料:金
- 直径:23mm
- 重量:7.99g
- グレード:PF UNC(PCGS-PR62)
リストライクですから、その前に発行された元の金貨があります。それは通常貨で、KMカタログによると発行枚数は211万枚です。通常貨ですから、数多く発行されても納得です。その後、プルーフでリストライクが作られました。製造枚数を見ると…12枚。なるほど。あまりに枚数が少ない&保存状態が素晴らしいので、価格もそれにふさわしくなっています。
なお、金貨ですから、本来は金色に光っているはずです。ところが、この金貨は黒いです。理由はスキャナーにあります。コインを撮影する際、スキャナーは鮮明な画像を撮るために、コインに光を当てます。すると、コインが光を完璧に弾いてしまい、結果として黒く写ります。
コインに小さな傷や凹凸が増えてくると、この黒さはなくなります。すなわち、この黒い金貨は傷が少なくて高品質だと分かります。