イギリス 概要・雑学

イギリスのコインの特徴【顔の向き】

2022年6月2日

イギリスのコインの特徴の一つに、「顔の向き」があります。

代ごとに顔の向きが入れ替わる

イギリスのコインには国王の肖像が描かれ、顔は右または左を向いています。そして、代が変わるごとに、顔の向きが右・左・右…と順に変化します。一部の例外を除き、右向きが続くことも、左向きが続くこともありませんでした。また、同一の国王で左右両方の肖像を採用する例もわずかでした。

この理由は不明です。王室が、そのように決めたということでしょう。正面を向いているのは、概ね1500年代半ばまでです。下は、ヘンリー8世(在位:1509年~1547年)の銀貨で、肖像は正面を向いていることが分かります。

イギリス・ヘンリー8世

正面の顔がこれだけ大きく描かれると、最も盛り上がった部分、すなわち鼻の頭からコインが削れていきます。それはデザイン的に美しくありません。横顔のデザインが多い理由の一つは、この点にあるでしょう。

では、メアリ1世から順に時代を下りつつ、コインの顔の向きを確認します。

主に左向き

メアリ1世(1553-1558)

テューダー朝の女王。父親はヘンリー8世であり、配偶者はフェリペ2世です。フェリペ2世はスペイン国王ですから、夫婦でイギリスとスペインを統治したことになります。とはいえ、フェリペ2世は基本的にスペイン滞在。子に恵まれず、次の王位は異母妹のエリザベス1世となりました。

メアリ1世のコインを見ますと、下の画像は正面を向いています。左を向いているコインも多いです。コインの顔が左、右、左…となったのは、次のエリザベス1世からです。

メアリ1世

メアリ1世

主に左向き

エリザベス1世(1558-1603)

ヘンリー8世の娘であり、前女王メアリ1世の異母妹にあたります。エリザベス1世の時代、イギリス絶対主義は最盛期を迎えました。そして、アルマダの海戦でスペインの無敵艦隊を撃破。これは1588年の出来事ですから、エリザベス1世の治世のことです。

下のコインを見ますと、顔が左向きになっています。正面を向いたコインもあるものの、左向きが多くなりました。これ以降、右、左…と続きます。

エリザベス1世

エリザベス1世

コインのスペック

  • 額面:1/2 ポンド
  • 年号:1560年
  • 材料:金
  • 直径:31mm
  • グレード:VF+

主に右向き

ジェームズ1世(1603-1625)

エリザベス1世は生涯独身だったため、後継ぎがいませんでした。そこで、遠い親戚がジェームズ1世として即位。ステュアート朝の始まりです。ちなみに、ジェームズ1世はイギリス王位に就く前からスコットランド王でした。よって、イギリスとスコットランドの両国を統治したということになります。

ジェームズ1世のコインは、主に右向きです(左向きもあります)。

ジェームズ1世

ジェームズ1世

コインのスペック

  • 額面:1/2 クラウン
  • 年号:no date
  • 材料:金
  • 直径:21mm
  • グレード:VF

左向き

チャールズ1世(1625-1649)

父ジェームズ1世の後を継ぎ国王となり、父と同じく専制的に治めました。この独裁に不満を持つ人達によって、1648年にピューリタン革命が起き、イギリスは共和制になりました。すなわち、国王が存在しない期間が続きました。王政が回復したのは1660年のことです。

イギリスのコインカタログ『SPINK』を見ますと、馬に乗った肖像も左向きで統一されています。

チャールズ1世

チャールズ1世

コインのスペック

  • 額面:ユナイト
  • 材料:金
  • 直径:34mm
  • グレード:VF

主に右向き

チャールズ2世(1660-1685)

イギリスが共和制だった期間は、1649年から1660年まで。チャールズ2世はピューリタン革命の難を逃れて海外生活を送った後、復帰して即位しました。ステュアート朝の復活です。なお、彼の王位継承問題で議会が2つに割れてしまい、これが二大政党の起源になったと言われています。

チャールズ2世のコインを見ますと、1660年~1662年は左向き、それ以降は主に右向きで作られています。

チャールズ2世

チャールズ2世

コインのスペック

  • 額面:5ギニー
  • 年号:1679年
  • 材料:金
  • グレード:EF+

主に左向き

ジェームズ2世(1685-1688)

チャールズ2世の後、弟のジェームズ2世がイギリス国王に即位します。ジェームズ2世の絶対主義的政策は議会制統治に適合せず。結果、1688年に名誉革命が発生し、ジェームズ2世はフランスに亡命しました。そのため、在位期間は僅か3年間です。

ジェームズ2世

ジェームズ2世

コインのスペック

  • 額面:5ギニー
  • 年号:1687年
  • 材料:金
  • グレード:VF+

右向き

ウィリアム3世(1688-1702)

イギリス議会はジェームズ2世を退位させ、ジェームズ2世の甥っ子にあたるオランダ総督、ウィリアム3世と妻メアリ2世を招聘しました。すなわち、二人は同時にイギリス国王になりました。

1694年にメアリ2世が亡くなると、ウィリアム3世は単独の国王となりました。下のコインはウィリアム3世が単独でデザインされており、メアリ2世が亡くなった後の発行だと分かります。

ウィリアム3世

ウィリアム3世

コインのスペック

  • 額面:1ギニー
  • 年号:1695年
  • 材料:金
  • 直径:25mm
  • グレード:EF+

左向き

アン(1702-1714)

アンはジェームズ2世の娘であり、メアリ2世は姉です。当時、スコットランドとイングランドはそれぞれが独立しており、別の国でした。アン女王が両国を合併し、グレートブリテン王国が成立しています。

また、17人の子を授かりましたが、誰も王位を継げるまでには成長せず、若くして亡くなっています。この結果、スチュアート朝はここで絶えました。

なお、下はメダルの画像ですが、コインも同様に左向きで作られています。

アン女王のメダル

アン女王のメダル

コインのスペック

  • 額面:メダル
  • 年号:1709年
  • 材料:銀
  • 直径:48mm
  • グレード:EF+

右向き

ジョージ1世(1714-1727)

アン女王が亡くなり、ステュアート家の血筋が途絶えたため、議会は再びイギリス王室の血を引く王を外国から迎えます。ジョージ1世であり、ハノーヴァー朝の始まりです。

ところが、彼は生まれも育ちも神聖ローマ帝国(ドイツ)です。すなわち、英語を話せず、治世の多くを神聖ローマ帝国で過ごしていました。

下はコインでなくメダルの画像ですが、コインも同様に右向きで作られました。

ジョージ1世

ジョージ1世

コインのスペック

  • 額面:メダル
  • 年号:1714年
  • 材料:金
  • 直径:35mm
  • グレード:AU/UNC

左向き

ジョージ2世(1727-1760)

ジョージ2世も、父親のジョージ1世同様に外国生まれです。そして次のジョージ3世以降は、全員イギリス国内で生まれています。すなわち、ジョージ2世が、最後の「外国生まれのイギリス国王」ということになります。

ジョージ2世

ジョージ2世

コインのスペック

  • 額面:2ギニー
  • 年号:1740年
  • 材料:金
  • 直径:31mm
  • グレード:-EF

右向き

ジョージ3世(1760-1820)

ジョージ3世は、イギリス生まれのイギリス育ちで、ジョージ2世の孫です。彼の在位中の1801年、グレートブリテン王国とアイルランドが合併して、グレートブリテン及びアイルランド王国が誕生しました。

イギリスのコインに「セント・ジョージと龍退治」が描かれるようになったのは、彼の治世からです。

ジョージ3世・1ドル

ジョージ3世・1ドル

コインのスペック

左向き

ジョージ4世(1820-1830)

ジョージ3世の亡き後、長男のジョージ4世が即位しました。ウェブで検索すると、自由奔放に生きた様子が伝わってきます。また、地位と資金力で当時の世の中のファッション等に大きな影響を与えたことが知られています。

ジョージ4世・2ポンド

ジョージ4世・2ポンド

コインのスペック

  • 額面:2ポンド
  • 年号:1823年
  • 材料:金
  • 直径:28mm
  • 重量:15.98g
  • グレード:PL FDC(NGC-MS63PL)

右向き

ウィリアム4世(1830-1837

兄のジョージ4世が亡くなったのを受けて、弟のウィリアム4世が即位しました。生誕が1765年ですから、65歳で英国王になったということになります。兄弟で王位を継ぐと、即位時に高齢になるのは仕方がありません。

ウィリアム4世

ウィリアム4世

コインのスペック

  • 額面:クラウン
  • 年号:1831年
  • 材料:銀
  • グレード:PR FDC

左向き

ヴィクトリア(1837-1901)

イギリスが「世界の工場」として世界の中心にあった時の女王です。ヴィクトリア時代は世界的に比較的平和だったことから、この時代を「パクス・ブリタニカ(イギリスの平和)」と呼ぶことがあります。

どのアンティークコインを買えば良いか分からない、しかし買いたいという場合、ヴィクトリア女王の5ポンドが候補の一つになるでしょう。

ヴィクトリア女王の2ポンド

ヴィクトリア女王の2ポンド

コインのスペック

  • 額面:2ポンド
  • 年号:1887年
  • 材料:金
  • 直径:29mm
  • 重量:15.98g
  • グレード:PF UNC(PCGS-PR63DCAM)

右向き

エドワード7世(1901-1910)

ヴィクトリア女王の治世が長かったため、即位したのは60歳で、在位期間はわずか10年でした。彼の治世の1902年に、日英同盟が締結されました。

エドワード7世・5ポンド

エドワード7世・5ポンド

コインのスペック

  • 額面:5ポンド
  • 年号:1902年
  • 材料:金
  • 直径:36mm
  • 重量:39.94g
  • グレード:Matt PF UNC

左向き

ジョージ5世(1910-1936)

第一次世界大戦当時の国王です。エドワード7世の長男の死を受けて、次男のジョージ5世が王位を継ぎました。

当時の王室名はハノーヴァー朝でした。しかし、これはドイツにちなんだ名前です。ハノーヴァー朝の始祖ジョージ1世は、生まれも育ちも神聖ローマ帝国です。そこで、王朝名が敵国ドイツに由来するのは良くないという理由で、ウィンザー朝に改められました。

ジョージ5世・ハーフソブリン

ジョージ5世・ハーフソブリン

コインのスペック

  • 額面:1/2 ソブリン
  • 年号:1911年
  • 材料:金
  • 直径:19mm
  • 重量:3.99g
  • グレード:PF FDC(NGC-PF65CAMEO)

左向き

エドワード8世(1936)

エドワード8世の在位期間は1年未満であり、極端に短いです。具体的には、1936年1月20日から1936年12月10日までです。ここまで在位期間が短かった理由は、結婚問題です。離婚歴あり・現在婚姻中の女性と結婚しようとして国中が大騒ぎとなり、退位を余儀なくされました。

在位期間があまりに短いため、公式のコインは発行されませんでした。しかし、発行準備はしていましたので、試鋳貨が存在します。下は、1937年銘のメダルです。

なお、本来ならば右向きで刻印されるはずですが、左向きの刻印となっています。唯一現存する金貨プルーフセットも、左向きとなっています。

エドワード8世

エドワード8世

コインのスペック

  • 額面:メダル
  • 年号:1937年
  • 材料:黄銅
  • 直径:50mm
  • 重量:49g
  • グレード:VF

左向き

ジョージ6世(1936-1952)

兄エドワード8世が突然退位したため、王位に就きました。世の中は世界大恐慌後の不景気、イギリス王室はスキャンダルで国王が退位、ドイツの動向も不透明という状況でした。しかし、ジョージ6世の人柄が良く、国民の信頼が回復しました。

ジョージ6世・2ポンド

ジョージ6世・2ポンド

コインのスペック

  • 額面:2ポンド
  • 年号:1937年
  • 材料:金
  • 直径:28mm
  • 重量:15.98g
  • グレード:Matt PF FDC(NGC-PF64)

右向き

エリザベス2世(1952-)

現在のイギリス女王です。ウィンザー朝第4代目の君主となります。1952年、父親のジョージ6世が亡くなって即位、すなわち在位年数は70年以上にもなり、歴代君主の中で最長記録を更新中です。

エリザベス2世・5ポンド

エリザベス2世・5ポンド

コインのスペック

  • 額面:5ポンド
  • 年号:1980年
  • 材料:金
  • グレード:NGC-PF69 ULTRA CAMEO

それぞれの時代のアンティークコインを1枚ずつ保有するのも、コレクションの楽しみ方の一つでしょう。

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