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アンティークコインのグレードと価格

2022年5月10日

アンティークコインを収集するにあたり、品質の良さは重要な基準です。しかし、専門家や造詣の深いコレクターでもない限り、品質を正確に判断するのは困難です。そこで、一般の人でも分かりやすいように、グレードと呼ばれる仕組みがあります。グレードを一言で説明するならば、格付です。

格付が高いコインは製造時の状態に近くて美しく、逆に、格付が低くなればなるほど摩耗が進んで、コインに描かれた文様等を判別しづらくなります。

グレードと価値

では、現存のアンティークコインの中で、グレードが高いものと低いものはどちらが多いでしょうか。深く検討するまでもなく、グレードが高いコインの枚数が少ないです。よって一般的に、コインはグレードが高い方が価値が高いです。

ただし、グレードが高ければ価値が必ず高いというわけではありません。例えば、現存枚数が極めて多いコインの場合、最上位のグレードであっても価値はそこそこになります。一方、現存枚数が極端に少ない場合は、ボロボロのコインでも大変な高額になります。

よって、アンティークコインの価値を考える場合、グレードは数ある要素のうちの一つであって、これが全てではありません。

グレードの概要

では、グレードを個別に確認しましょう。少々ややこしいことに、表記方法について世界の統一基準があるわけではありません。日本で良く知られた格付方法は3つありますので、順に確認しましょう。

  • イギリスのグレード
  • 日本のグレード
  • アメリカのグレード

イギリスおよび日本のグレード

イギリスはアンティークコインの歴史が長く、そこで採用されているグレードは日本でもなじみ深いです。そこで、イギリスの基準を確認しましょう。イギリスのグレードに対応させて、日本のグレード表記を右側に表示します。

イギリス 日本
PF(proof) プルーフ
PL(proof like) プルーフライク
FDC(Fleur de Coin) 完全未使用品
UNC(uncirculated) 未使用品
AU(almost uncirculated) 準未使用品
EF(extremely fine) 極美品
VF(very fine) 美品
F(fine) 並品
VG(very good) 劣品

なお、それぞれのグレードに「+」や「-」をつける場合があります。例えば、「-EF」です。これは、「グレードはEFだが一般的なEFに比べると少し摩耗が進んでいる」という場合に使われます。逆に、「+EF」ならば、「グレードはEFだが他の一般的なEFに比べると品質が良い」という場合に使われます。

よって、グレードはたくさんあるということになります。

とはいえ、グレードを覚えようと頑張る必要はありません。必要になったら、このページをご覧いただければ十分です。自然と覚えてしまうでしょう。以下、それぞれのグレードを簡単に解説します。

PF(プルーフ)

金貨の元となる金の板をピカピカに磨き、プルーフ専用の金型を使って刻印します。製造後も、傷がつかないように丁寧に扱われます。すなわち、プルーフは流通目的でなく、贈答用など特別な目的で作られます。

下は、パラオの200ドル金貨です。これはカラーコインと呼ばれるもので、色鮮やかなデザインが印刷されています。また、金色というよりは黒っぽい色をしている部分があります。これは、表面があまりにピカピカなのでスキャナーの光を完璧に跳ね返してしまい、それが黒として表現されています。

パラオ パラオ

コインのスペック

  • 発行国:パラオ
  • 額面:200ドル
  • 年号:1994年
  • グレード:PF FDC
  • 材料:金
  • 純度:0.999

PL(プルーフライク)

Proof-likeを訳すと、「プルーフのような」です。すなわち、プルーフとして作られたわけではありません。しかし、プルーフ製造後、量産品として作られたコインの最初期のものは、プルーフのような仕上がりになることがあります。これがPLです。

FDC(完全未使用)

未使用の中でも、完璧度合いが高いものが完全未使用です。よって、とてもきれいな状態ですが、「傷一つない」という意味ではありません。

現代の新規発行の金貨や銀貨は、傷一つなくピカピカです。しかし、近代以前のコインは製造方法が異なりますし、長期間の保存を経て現代に受け継がれていますので、多少の傷がついてしまうのは仕方がありません。

UNC(未使用)

UNCとは未流通のコインを指しますが、こちらも傷がないという意味ではありません。例えば、造幣局での製造時や保管時に、コインに傷がついてしまうことがあります。この場合、流通前についた傷ですからグレードは下がらず、UNCと判定されます。また、長期間の保管を経ている場合、自然に変色している場合があります。この場合もUNCです。

以上の通り、未使用は「流通していない」という意味ですので、その範囲は意外に広いことが分かります。

AU(準未使用)

準未使用は、実際に流通したコインです。しかし、流通過程でついた傷がとても少なく、未使用状態に近いものを指します。

EF(極美品)

極美品は流通したコインですが、摩耗や傷が比較的少なく、デザインが明晰に判別できるものを指します。「明晰に」の基準は人によって異なりますので、下のコインをご覧ください。デザインがこれくらいはっきりしていると、EFになります。

ブラジル10000レイス金貨 ブラジル10000レイス金貨

コインのスペック

  • 発行国:ブラジル
  • 額面:10,000レイス
  • 年号:1725年
  • グレード:EF
  • 材料:金

VF(美品)

美品は「美」という漢字が使われています。また、英語の”Very Fine”は「大変すばらしい」という意味です。しかし、アンティークコインの世界では少々異なる意味で使われています。すなわち、VF(美品)とは「流通の過程で摩耗が進み、傷もあり、デザインの細部は不明確だが、本来のデザインを十分に判別できる」です。

では、このグレードだと価値はないか?といえばそうでもなく、現存数がそもそも少ない場合にはVFでも大変な高値になります。また、現存枚数が多い場合はお手頃価格で買えますので、VFのコインにもメリットがあります。

F(並品)、VG(劣品)

FとVGは、2つまとめて同じ説明が可能です。すなわち、「流通の過程で全体的に摩耗が進み、傷も多くあり、デザインの判別も難しい」状態です。Fの英語はFine(=素晴らしい)、VGはVery Good(=大変良い)ですが、アンティークコインにおける意味は大きく異なります。

これは憶測ですが、何百年またはそれ以上前のコインが現在にまで受け継がれていて、そのこと自体が素晴らしいという意味を込めた表現なのかもしれません。日本語の「並品」「劣品」は、比較的正直に表現していると言えそうです。

アメリカのグレード

アメリカには有名な鑑定会社が2社あります。それぞれPCGS、NGCと呼ばれ、70段階の評価を採用しています。

  • PCGS: Professional Coin Grading Services
  • NGC: Numismatic Guaranty Company
イギリス(日本) PCGS、NGC
FDC(完全未使用品) PF/MS 65~70
UNC(未使用品) MS 62 ~ MS 64
AU(準未使用品) AU 58 ~ MS 61
EF(極美品) XF 50 ~ AU 55
VF(美品) VF 35 ~ XF 45
F(並品) F 15 ~ VF 30
G(劣品) G 4 ~ F 12

アンティークコインのグレードと価格

グレードを概観しましたので、次にグレードと価格の関係を確認します。アンティークコインは製造時の姿を保っていると貴重で、使い込まれると価値は下がります。では、同一のコインについて、グレードによってどれくらいの価格差が出るでしょうか。

調査方法

グレードと価格の関係を調べるには、以下の条件が必要です。

  • 現存枚数が一定以上ある
  • 活発に取引されている

例えば、何百年以上も昔のコインで現存枚数が少なく、そもそも買える機会さえない場合、グレードがUNCのコインは存在しないかもしれません。これでは、グレードと価格の関係を調べられません。

あるいは、シリーズもののコインを集めているコレクターがいて、「あと1枚でシリーズを完成できる!」という状況だとします。この状況で最後の1種類のコインが市場に出てきたら、コレクターによっては割高でも構わず買うでしょう。

できる限り、このような例を排除したいです。そこで今回は、明治時代に発行された新1円銀貨(大型)の価格で比較します。

新1円銀貨(大型)で比較

新1円銀貨(大型)は、100年以上前に発行された大型銀貨です。しかし、発行枚数が多かったためか比較的現存数が多く、グレードと金額の関係を調査しやすいです。

なお、価格そのものは時とともに変化していきます。そこで、並品(Fine)の価格を1とした場合の、それぞれのグレードの価格をグラフ化しました。

調査方法

明治7年から明治20年までに発行された新1円銀貨(大型)19種類の価格を、「日本貨幣カタログ2019」で調査し、グラフ化

結果、下の通りとなりました。

新1円銀貨グラフ

グラフの分析

上のグラフを見て分かる点が、いくつかあります。

グレードが上がるほど、高額になる

グレードが高くなれば価格も高くなるのは、自然なことです。実感として分かることが、改めてグラフでも証明されました。

未使用、完全未使用の価値が高い

グレードが高いほど高額になるのですが、「未使用・完全未使用の価値が圧倒的に高い」ことが分かります。上のグラフを表にしますと、以下の通りです。

最大 平均値 最低
完全未使用 30.0 18.0 6.9
未使用 15.0 10.0 4.3
極美品 3.9 3.1 1.9
美品 2.5 1.9 1.6
並品 1.0 1.0 1.0

並品と極美品を比較しますと、価格は1.9倍から3.9倍になります。未使用になると、さらに急激に価格差が大きくなります。すなわち、資産運用の一環としてアンティークコインを集めるなら、未使用以上のコインを買いたいです。

ただし、何百年も前のコインの場合、未使用以上のコインが存在しない例が圧倒的です。その場合は、極美品(EF)以上のコインを探すことになるでしょう。

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