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修正したコイン、磨いたコインの価値

2022年5月12日

アンティークコインの傷や欠けを修正すると、価値が大きく下がります。また、磨いてきれいにしてしまうと、これまた価値が下がってしまいます。この現象について、実例を踏まえながら考察します。

コインに修正痕があった

例えば、下のコインを見てみましょう。コレクターの間でとても有名な「ウナとライオン(Una and the Lion)」の5ポンド金貨です。

ウナとライオン ウナとライオン

これは、第49回日本コインオークションで出品されたコインであり、極めて傷が少なく美しい状態を保っています。出品時点(2019年)で、ウナとライオンの5ポンド金貨は2,000万円が相場だといわれおり、これほど状態が良ければ、さらに高値がついてもおかしくありませんでした。

しかし、オークションのスタート価格は700万円でした。こんなに安値になってしまった理由は、何でしょうか。

実は、修正痕があったのです。下の左側の画像は、上のコインを拡大したものです。赤の四角部分に修正がありますが、分かるでしょうか。比較のために、無修正のコインを右側に並べています。

ウナとライオンの比較

この画像では修正痕はほぼ見えず、コインを傾けて光の反射の加減を調整すると、特定の角度にした時にわずかに確認できるだけです。修正した技術者の技量がとても高いことが分かります。しかし、修正品扱いです。

修正・修理してしまう理由

アンティークコインには、様々な価値があります。例えば、「貴金属」という価値です。そのほかに「歴史的な遺産」としての価値もあるでしょう。そして、「美術品」としての価値もあります。

世の中には数多くの美術品があり、それぞれの特徴に「それ一つしかない」という点があります。すなわち、ひとたび失われたら二度と戻ってきません。今まで、有名な芸術家が様々な作品を残しました。そして、美術品は有形物ですから時とともに劣化します。そのまま放っておくと劣化が進んでしまい、やがて消滅してしまいます。

そこで、保存するために修正技術が発展してきました。修正を施すと、それは元の作品とは大なり小なり異なってしまいます。しかし、さらに劣化して朽ちてしまうよりは、修正して保存した方が良いです。その感覚で、アンティークコインも修正してしまうのでしょう。

その他の理由として、傷があるコインよりも傷が目立たないコインの方が見た目に美しい、という点もありそうです。

修正すると価値が落ちる理由

しかし、他の美術品と異なり、アンティークコインは修正すると価値が大幅に落ちてしまいます。なぜでしょうか。理由は「ほかにも同じコインがあるから」でしょう。

今回、有名な「ウナとライオン」の5ポンド金貨を例にしました。この金貨の公式の発行枚数はわずか400枚であり、そのうちの一定枚数は既に失われていることでしょう。しかし、残り1枚というわけではありません。

  • 修正していないコイン
  • 修正したコイン

全く同じコインで上の2種類があるとしたら、どちらが欲しいですか?という話になります。大半のコレクターは、「修正していないコインが欲しい」と思うでしょう。これが「修正=価格暴落」となる理由です。

この記事の冒頭で紹介したコインは、傷が極めて少ないです。この修正痕が発見されるまでは、「世界最高品質のウナとライオン」と評価されることもあったようです。しかし、素人には分からないレベルの修正痕が見つかっただけで、価格は暴落です。お手元にあるアンティークコインで、傷があるから修正したいなあと思っても、修正しないようにしましょう。

この修正には、銀貨の錆び(銀錆)を落とすといった行動も含まれます。

コインを磨くのもダメ

アンティークコインとは、いわば古いコインです。古いので、金貨・銀貨問わず多少変色します。これは、長年の保存で付いた汚れや錆などが原因です。そこで、磨いてあげるときれいになります。下は磨いた後のコインであり、アンティークコインの世界では、磨くことをポリッシュ(polished)といいます。

ポルトガル-1クルザード金貨 ポルトガル-1クルザード金貨

コインのスペック

  • 発行国:ポルトガル
  • 額面:1 クルザード
  • 年号:1521年~1557年
  • グレード:F
  • 材料:金
  • 特記事項:磨き(Polished)

比較のために、ほぼ同じ時期のポルトガルの金貨と比較してみましょう。こちらは、上の金貨ほどには輝いていません。

ポルトガル500レイス金貨 ポルトガル500レイス金貨

コインのスペック

  • 発行国:ポルトガル
  • 額面:500レイス
  • 年号:1557年~1558年
  • グレード:-EF
  • 材料:金

上の2枚を比較しますと、磨いたコインの方が明らかにピカピカしています。アンティークコインから離れて考えますと、一般的にはピカピカで美しい方が望ましいです。

人為的な修正は価値が大きく下がる

しかし、アンティークコインを磨くと、後悔することになります。なぜなら、価値が劇的に下がってしまうからです。なぜ価値が下がるか?ですが、それはコインに手を加えることにより、本来の姿が失われてしまうからです。

  • 製造時の状態を保ったコイン(経年による汚れあり)
  • 磨いてきれいになったコイン

どちらが欲しいですか?という話になります。

コインを格付する方法としてグレードがあり、このグレードの基準は「コイン製造時の姿をどれほど維持しているか?(ただし、自然による変化はマイナスとしない)」です。

磨いたコインは後世に手を加えられていますから、製造時の姿と異なります。アンティークコインの世界では、製造後の人為的な修正や磨き等はマイナス要素です。よって、金貨でも銀貨でも、磨くと価値が大きく下がってしまいます。

ピカピカのコインが欲しい場合

しかし、金貨はピカピカに輝いている方が良い、という場合もあるでしょう。そこで、輝いている金貨や銀貨が欲しい場合の対策を、2つご案内します。

モダンコインを買う

モダンコインとは、発行後の期間が概ね100年未満のコインを指します。新しいコインは輝きが素晴らしいですから、新発売のコインを特に狙います。モダンコインのメリットとして、高価なアンティークコインに比べると手が届きやすいという点があります。

既に磨いてあるコインを買う

もう一つの対策は、「磨いてあるコインをあえて買う」という方法です。コインを磨いてはいけない理由は、価値が下がるからです。しかし、輝いているアンティークコインが欲しいです。ならば、既に磨いてあるアンティークコインを買えば良いのでは?ということです。

磨いたコインを買うメリットは、以下の通りです。

  • コインが輝いている
  • 価格下落後なので、安く買える

安く買えるのは、魅力です。無限の資産があれば高級品を買いたいところですが、現実には限られた資産を使ってコインを買います。そこで、磨いてあるコインを敢えて買う選択肢も有力です。

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