1801年~1900年 その他欧州

スイス射撃祭コイン(1842年~1885年)

2022年5月23日

スイスでは、様々な射撃祭が開催されてきました。そして、記念コインが発行されることもありました。この記事では、1842年から1885年にかけて発行されたコインを中心に概観します。

射撃祭とは

射撃祭とは、文字通り銃を使った祭りであり、各地域の代表者が腕を競って相互の連帯感を高めました。射撃祭の歴史は14世紀まで遡ることができ、当時は銃がありませんから、クロスボウを使って腕を競ったようです。

また、この射撃祭は単なるお祭りでなく、スイスという国を維持するために必要なイベントでした。スイス国内の各地域は独立志向が強く、構成諸邦が盟約を結んで一つのスイスを形成していました。よって、相互の連帯感を確かめ合うイベントが必要だったのです。

フランス革命時代のスイスの様子を見ると、各諸邦の独立志向の強さが分かります。1798年にフランスはスイスに侵攻して占拠し、スイスの地にヘルヴェティア共和国を建国しました。ヘルヴェティア共和国は強力な中央集権型で、スイスの実情を無視した政治体制です。

その結果、中央集権支持派と従来の連邦支持派が激しく対立。クーデターが何度も発生して国の体裁を維持できなくなり、建国からわずか5年後の1803年にヘルヴェティア共和国は廃止され、元の政治体制に戻りました。

このような状況ですから、貨幣発行権は各諸邦が持っており、様々な種類のコインが発行されてきました。中央集権的な現代のスイスが誕生したのは、1848年のことです。

射撃祭コイン

射撃祭はとても重要なイベントですから、記念コインが発行されても不思議ではありません。1842年、全国大会(連邦射撃祭)記念で初のコインが発行されました。アンティークコインの世界で射撃祭コインという場合、狭義では連邦射撃祭で発行された5フラン相当のコインを指します。以下、表に全種類を掲載します。

射撃祭コイン一覧

表を見ますと、1842年と1847年の額面は5フランではありません。しかし、5フランに近い規格で作られており、射撃祭コイン全17種に含められています。スイス連邦が統一的な貨幣制度を導入したのは、1850年のことであり、それ以前は各諸邦が自由に発行していました。

(表の地名をクリックすると、その射撃祭で発行されたコインの画像・情報に移動します(当記事の下部)。)

発行年 開催地 備考
1842 Chur(Graubunden) クール(グラウビュンデン) 額面:4フラン
1847 Glarus グラールス 額面:40バッツェン
1855 Solothurn ソロトゥルン
1857 Bern ベルン
1859 Zurich チューリッヒ
1861 Nidwalden ニトヴァルデン
1863 La Chaux-de-Fonds ラ・ショー・ド・フォン
1865 Schaffhausen シャフハウゼン
1867 Schwyz シュヴィーツ
1869 Zug ツーク
1872 Zurich チューリッヒ
1874 St. Gallen ザンクト・ガレン
1876 Lausanne ローザンヌ
1879 Basel バーゼル
1881 Fribourg フリブール
1883 Lugano ルガーノ
1885 Bern ベルン

広義の射撃祭コインは、上の17種に下の4種類を追加したものです。

発行年 開催地 備考
1934 Fribourg フリブール 100フラン金貨
1934 Fribourg フリブール 5フラン銀貨
1939 Luzern ルツェルン 100フラン金貨
1939 Luzern ルツェルン 5フラン銀貨

さらに広義には、5フラン以外の規格で作られたコインや、各地方大会で発行されたコインを含みます。こうして射撃祭コインの範囲を広げると、枚数はとても多くなります。なお、1984年に射撃祭コインが復活しており、こちらは現代射撃祭シリーズとして親しまれています。

1934年と1939年のコインについては、下の記事でご確認ください。

射撃祭コイン
スイス射撃祭コイン(1934年&1939年)

スイス射撃祭コインは、1885年を最後に発行が途絶えていました。しかし、ラテン通貨同盟の終了を受けて、1934年と1939年の2回にわたって再発行されました。そこで、これらのコインを概観します。 18 ...

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発行停止と復活

スイス射撃祭の全国大会(連邦射撃祭)は、数年ごとに開催されました。そのたびに記念コインが発行されましたが、1885年が最後になりました。これは、ラテン通貨同盟との間に問題が起きたためです。

ラテン通貨同盟

ラテン通貨同盟とは、通貨の品質について定めた国際条約です。フランスが中心となって作られました。加盟国はフランス、ベルギー、スイス、イタリアなどです。その他、正式加盟せずにその基準に従う例もありましたので、参加国は多数でした。当時、フランスの影響力が大きかったことが分かります。

そして、加盟国では「他国が発行した銀貨であっても、自国で流通させて良い」という取り決めがありました。規格に則った銀貨ですから、デザインが違っても構わないというわけです。

しかし、実際に流通させてみると、加盟国の国民は変なコインが混じっていることに気づきました。スイス射撃祭コインです。

スイス国民なら、「これは射撃祭コインだよね」で軽く流せるでしょう。しかし、他国の国民の場合、それは難しかったかもしれません。「果たして、これは基準を満たす本物のコインだろうか」「それとも、怪しいコインだろうか」というわけで、多少なりとも混乱を引き起こしました。

よって、ラテン通貨同盟加盟国は、スイスに抗議しました。スイスとしては、無視したいところだったでしょう。しかし、繰り返し苦情がやってきたため、1885年を最後に記念コインの発行を停止しました。

なお、ラテン通貨同盟は19世紀末には事実上機能を停止し、1927年に正式に終了しました。これを受けて、スイス射撃祭コインは1934年から再び発行されました。しかし、第二次世界大戦勃発を受けて、1939年を最後に再び発行が停止されました。

1984年に再復活

こうして、スイス射撃祭コインは歴史の1ページになっていましたが、1984年に復活しました。チューリッヒのコイン商であるハーマン・ハバリング(Hermann Haberling)が、射撃祭コインの歴史的価値を認識し、連邦財務局や射撃祭協会と協議した結果です。

それ以降、スイス射撃祭コインは継続的に発行されており、有名なシリーズになっています。

射撃祭コインの画像と情報

以下、射撃祭コインの画像と情報を掲載します。画像は(株)ダルマまたは Six Bid からの引用です。(株)ダルマで購入可能なコインにつきましては、各コインの情報欄にリンクを設定しています。

1842年 Chur(クール)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:4フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:4,256枚

1847年 Glarus(グラールス)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

1855年 Solothurn(ソロトゥルン)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:3,000枚

1857年 Bern(ベルン)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:5,191枚

1859年 Zurich(チューリッヒ)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:6,000枚

1861年 Nidwalden(ニトヴァルデン)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:6,000枚

1863年 La Chaux-de-Fonds(ラ・ショー・ド・フォン)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:6,000枚

1865年 Schaffhausen(シャフハウゼン)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:10,000枚
  • 備考:金貨で2枚発行

1867年 Schwyz(シュヴィーツ)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:8,000枚

1869年 Zug(ツーク)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:6,000枚
  • 備考:金貨で4枚発行

1872年 Zurich(チューリッヒ)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:10,000枚

1874年 St. Gallen(ザンクト・ガレン)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:15,000枚

1876年 Lausanne(ローザンヌ)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:20,000枚

1879年 Basel(バーゼル)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:30,000枚

1881年 Fribourg(フリブール)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:30,000枚

1883年 Lugano(ルガーノ)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:30,000枚

1885年 Bern(ベルン)

射撃祭コイン

射撃祭コイン

コインのスペック

  • 額面:5フラン
  • 材料:銀
  • 発行枚数:25,000枚

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