1801年~1900年 米州

リバティーキャップ(フリージア帽)

2022年7月4日

南米のコインを検索していると、下の赤枠のデザインにしばしば出会います。腕があり、なぜか棒を持っていて、棒の先にあるのは…綿菓子?これは、帽子です。当記事では、メキシコの8エスクード金貨を題材にしつつ、この帽子にまつわる話を紹介します。

この帽子、実は間違いで採用されています。

リバティーキャップ

メキシコの8エスクード金貨

最初に、このコインの両面をざっくりと確認しましょう。両面とも良く知られたデザインです。表は、鷲がサボテンの上で蛇をくわえています。そして裏は、リバティーキャップ(フリージア帽)と憲法書を描いています。

メキシコの8エスクード金貨

メキシコの8エスクード金貨

引用元:日本コインオークション

コインのスペック

  • 額面:8エスクード
  • 年号:1861年
  • 材料:金
  • 重量:26.84g
  • 品位:0.875
  • グレード:VF

表のデザイン

表のデザインは、当時のメキシコの国章です。現在の国章は下の通りで、当時と異なるものの基本構成は同じです。国旗の中心部にも描かれていますから、何かの機会に国旗を手描きしたい場合、とても大変そうです。

メキシコの国章

画像引用:Wikipedia

この絵柄は、アステカ時代の伝説を元にしています。

伝説

ある時、アステカ王は神託を受けました。「ある場所で、鷲がサボテンに止まって蛇を食べている。その場所に都を造りなさい。」と。

そこで、メキシコ一帯を探し回ったところ、現在のメキシコシティの位置で、ちょうどその光景を目にしました。そこはテスココ湖に浮かぶ島で、アステカ王がその場所に作った都をテノチティトランといいます。

ちなみに、現在のメキシコシティの様子をgoogle mapで見ますと、湖はありません。ちょっとした池があるだけです。すなわち、ほとんど埋め立てられたということです。

コインに戻りまして、周囲の文字は「REPUBLICA MEXICANA」(メキシコ共和国)です。

裏のデザイン

裏のデザインは、一見すると良く分からない感じです。描いてあるのは、憲法書、腕、棒、そして帽子です。帽子と言われればそうかなという感じですが、知識がない状態で見ると、帽子には見えそうもありません。

憲法書

憲法書とは、文字通り憲法を記した書物です。植民地時代のメキシコは、宗主国スペインの利益になるように統治されました。この憲法書は、メキシコの人々のために作られ、法に基づく統治がなされることを誓ったものです。

フリージア帽(リバティーキャップ)

フリージア帽とは、柔らかい生地で作った帽子です。頂点部分が前に垂れているのが特徴です。「あつまれどうぶつの森」のアイテムで「フリジアぼう」が出てきましたから、そちらのイメージが強い人も多いことでしょう。

フリージア帽

このフリージア(Phrygia)とは国名であり、紀元前600年代まで現在のトルコ地域で栄えました。フリージアの名前を見たのは初めてという場合も、この国にまつわる伝説は聞いたことがあるかもしれません。すなわち、ミダス王が触れたものは全て黄金になるという、黄金伝説です。

なお、所在地は現在のトルコの西半分くらいで、イメージとしては、下の地図の赤枠です。

フリージア

画像引用:google map

その後、フリージアは、リディアやアケメネス朝ペルシアの支配下に入りました。リディアといえば、金貨に人物像を最初に刻印したとして知られています。ダリク金貨「槍と弓を持って走る王」です。

リディア

画像引用:日本コインオークション

どの国も単独では存在せず、周囲に様々な国がありました。コインを軸にして確認すると、このような関連性が見えてくる楽しさがあります。

話が少しそれましたので、戻しましょう。フリージア帽は、「フリージア」で使われていました。それがなぜメキシコの国章になるか?について、以下の変遷を経ています。

メキシコの金貨デザインに採用されるまでの経緯

紀元前700年くらいの国の帽子が、19世紀メキシコの金貨に。この経緯は、以下の通りです。

フリージアは鎖国をしていたのでなく、他国と往来があったはずです。フリージア帽は、古代ギリシャを経由して古代ローマ帝国に伝わりました。そして当時の古代ローマ帝国には、独自の帽子がありました。「ピレウス帽」です。

  • フリージア帽
  • ピレウス帽

このピレウス帽、誰もが自由に使用したわけではなく、自由民となった奴隷などが使用したという代物です。このため、ピレウス帽は自由の象徴と見なされました。奴隷的な立場からの解放!です。

下の銅貨をご覧いただきますと、下側の画像の中央部に突起物が描かれています。これがピレウス帽です。古代ローマ皇帝カリグラ治世下で発行されました。

クアドランス銅貨

クアドランス銅貨

コインのスペック

  • 額面:クアドランス銅貨
  • 年号:40年
  • 直径:19mm
  • 重量:3.1g
  • グレード:EF

その後、時代が過ぎ、下はフランス革命を描いた有名な絵です。中心に描かれているのは自由の女神で、彼女が被っている帽子が、まさにピレウス帽…と書きたいところですが、ここで問題が。

フランス革命

画像引用:Wikipedia

フランス革命の際、どこかでピレウス帽とフリージア帽が混同されてしまい、フリージア帽が自由の象徴として採用されてしまいました。そして、メキシコが独立するに際して、フランス革命の影響を受けてフリージア帽が使われました。

その流れで、貨幣にもフリージア帽が採用されました。

帽子を取り違えるとは何事?という感じかもしれません。そこで、両者のデザインを確認しましょう。下の通りです。

左は紀元前1世紀の彫刻でピレウス帽、右は2世紀ごろの彫刻で、フリージア帽です。両方ともフェルト生地のような柔らかい素材で作られており、雰囲気も似ています。取り違えても仕方ないかな…という感じです。

フリージア帽とピレウス帽

ピレウス帽引用元:Wikipedia
フリージア帽引用元:Wikipedia

間違いが起きてしまったものの、以上の経緯から、フリージア帽はリバティーキャップ(自由の帽子)とも呼ばれます。

帽子の位置

ここで、フリージア帽が描かれた位置に注目してみましょう。下は、植民地時代の金貨です。赤枠部分にあるのは、王冠です。すなわち、メキシコはスペイン国王に統治されていたことが分かります。

メキシコの金貨

この王冠が取り除かれ、同じ位置にフリージア帽、すなわちリバティーキャップが描かれました。王政を脱して自由になったこと、そして、共和制であることが示されています。

なぜ棒に刺している?

次に、帽子に刺した棒について見ていきましょう。なぜ、わざわざ棒に刺しているのか?です。この棒は、「liberty poll(リバティーポール・自由の棒)」と呼ばれています。コインの絵では小さな枝のように見えますが、実際には大きなものです。枝というよりは、長い棒です。

下は、18世紀のドイツの絵です。リバティーポールに帽子を刺し、大勢がその周囲で踊っています。このような使われ方をしました。

フリージア帽

画像引用:Wikipedia

コインの周囲の文字

最後に、コインの裏面に書かれている文字を確認しましょう。コイン画像をずいぶん前に掲載しましたので、ここに再掲します。

メキシコの8エスクード金貨

周囲に書かれた文字は、「LA LIBERTAD EN LA LEY 8E Go 1848 PM 21Qs」です。

  • LA LIBERTAD EN LA LEY:自由と法
  • 8E:8エスクード
  • Go:Guanajuato(グアナフアト)

グアナフアトは、造幣局があった地名です。首都メキシコシティの北西にあります。

  • 1861:製造年(1861年)
  • FR:検査官の名前
  • 21Qs:金の純度(87.5%)

検査官とは、コインの品質を検査する人です。なぜ、検査官の名前が刻印されているのでしょうか。その理由につきましては、下のリンク先記事でご確認ください。ペルーもメキシコも、スペインの植民地でした。よって、同じような状況です。

ペルーの8エスクード金貨
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