投資としてアンティークコインを買う場合、その保有期間が気になるかもしれません。いつ利食いできると想定すれば良いでしょうか。FXだったら、スキャルピングの保有期間は1分未満で、超長期保有になると年単位です。
アンティークコインも、同じように考えられるでしょうか。
FXと比較
アンティークコインの場合、保有期間は年単位が基本です。この点、一般的な実物資産と同じです。不動産、絵画、高級腕時計等々。
ここでは、隔月刊誌『外国為替』経由で当記事をご覧いただいている皆様向けに、FXと比較します。
FXの場合
FXの場合、銘柄そのものに希少性はありません。例えば「本日の米ドル円は好評につき売り切れました!」なんてありません。毎日何兆ドルもの通貨が売買され、しかもデジタルですから、PC画面等で簡単に売買できます。
この結果、全世界の誰もが、現在値を簡単に確認できます。業者ごとに為替レートはわずかに異なりますが、どのFX業者もほぼ同一レートです。
アンティークコインの場合
これに対して、アンティークコインは真逆な雰囲気です。特定のコインは1点モノであって、替えが効きません。同時期に発行された同種のコインであっても、摩耗の具合や色合いがそれぞれ異なり、価格も違ってきます。すなわち、希少性が高いです。
希少性が高いので、購入チャンスは限られます。売りに出されているコインを見て、欲しければ買う、そうでなければ次の機会を待ちます。逆に、売る側は、いくつかの選択肢で自由に売却できます。
売却の選択肢
- コイン業者に買ってもらう
- コイン業者で委託販売する
- オークションに出品
また、希少性の高さゆえに、価格は1つに決まりません。適正価格には幅があります。このため、売値を一定の範囲で自由に決められます。中には、オークションに出したら購入希望者が競って、希望売却価格よりも高値で売れた!というのもあり得ます。
例えば、下はジョージ4世戴冠時の金メダルで、第54回日本コインオークションに出品されました。スタート価格は100万円。落札価格は280万円。こんな感じで売れれば、満足でしょう。
投資戦略【保有期間別】
以上の比較を見ると、主な投資戦略が2つ考えられます。
長期保有
一つ目は、王道です。すなわち、長期保有。ここでいう長期とは、年単位です。方法は簡単で、コインのうち、何十年にもわたって人気を集め続けているものを買って、放置するだけです。そして、価格が上昇したら売却します。
この方法の最大の問題点は、「何十年にもわたって人気を集め続けている」の判定が難しいという点です。
FXなら、チャートを見れば過去の値動きが簡単に分かります。しかし、アンティークコインにはチャートがないので、悪意ある業者が顧客をカモにすることもできます。
業者:このコインは期待できるよ!(知らんけど)
顧客:なら、買った!
こんなことができてしまいます。これを回避する方法は2つで、一つは自分で勉強すること。しかし、しんどいです。そこで、二つ目。「信頼できるコイン業者で情報をもらって買うこと」です。
信頼できるコイン業者とは、誠実かつ知識が豊富で、適正価格で売買してくれる業者です。業者の中には、顧客に相場の何倍もの価格で売りつけるところが存在します。コインに限らず、他の業界も同様です。アンティークコインだけは清潔な業界だというわけにはいきません。
そこで、アンティークコインで成功するには、コイン業者選びが極めて重要です。
短期売買
2つ目の投資戦略は、短期売買です。
冒頭で、アンティークコインは一物一価でなく、適正価格には幅があるという趣旨を書きました。ならば、適正価格の下限付近で買って、上限付近で売れば良いのでは?という話になります。
これが、最も手っ取り早いかもしれません。しかし、適正価格の範囲を知っている必要があり、初心者が参入するには難易度が高すぎるという難点があります。
なお、初心者でも簡単にできる方法もあります。それは、スラブの評価を利用する方法です。
スラブの評価を利用
スラブとは、コイン保存用のプラスチックケースです。鑑定会社がコインを鑑定し、結果を記載するとともにケースに密封します。この鑑定結果を見れば、コインに詳しくなくてもグレード(コインの状態)が分かりますし、ケースに入っていますから管理が簡単というメリットがあります。
画像引用:(株)ダルマ
上のスラブに書かれている情報は、下の通りです。
- 1818 ITALY 15DUC:1818年イタリア発行の15デュカティ金貨
- NAPLES & SICILY:ナポリ&シシリー(地名)
- MS63:未使用
- 5783257-060:管理番号
このサービス、とても頼もしいのですが、問題があります。グレード評価がおかしい場合が稀にあるのです。例えば、どう見ても傷があるという状態でも、最高評価が付けられていたり、その逆だったり。
ちなみに、上の写真のグレードはMS63(未使用)であり、(株)ダルマも同じ評価です。
スラブの評価が高すぎる場合
(株)ダルマは、スラブに書かれたグレードを無視し、自社の鑑定に基づいて売買します。すると、スラブは高評価だけれど(株)ダルマの評価はそれほどでもないという状態が、稀に発生します。
この場合、(株)ダルマの評価で買います。そして、どこか別の場所で売るときには、スラブの高評価で売れます。差額が利益となります。
この方法は、いつでも使えるわけではありません。この状態のコインに遭遇したらラッキーという感じです。遭遇したら、確実にモノにしたいです。
スラブの評価が低すぎる場合
逆に、コインの本来の品質に比べて、スラブの評価が低すぎる場合があります。どこかでこの状態のコインを見つけたら、ラッキーです。安値でコインを買えるからです。
コインを買ったら、スラブを破壊して本来の価値で売ったり、ダルマで適正価格で買ってもらったりできます。
ただし、こちらの方法を実行するには、自分自身にコインの鑑定能力が必要です。初心者のうちは、実行できないでしょう。玄人向けの方法です。
裸コインを買って、スラブに封入
以上、2つの方法をご案内しました。これに加えて、第3の方法があります。この方法を採用する場合、購入から売却までの期間は、最短で1年弱となるでしょう。短期と長期の間の運用方法です。
その方法とは、「裸コインを買って、スラブに入れて、売る」です。この意味は、以下の通りです。
裸コインとは、スラブに入っていないコインを指します。スラブに入れるとは、裸コインを鑑定会社に送って鑑定してもらい、スラブに封入してもらうことを指します。
こうするだけで、価格が概ね数十%以上、上昇する傾向があります。コインはスラブに入っていようがいまいが、価値に変化はありません。しかし、価格が上がる傾向があります。
価格が上昇した例
この種の例を探すのは、比較的容易です。下の銀貨は、ジュネーブで1848年に発行された5フラン銀貨です。このコインが2枚、第49回日本コインオークションに出品されました。グレードは、両方とも未使用です。
では、2枚の落札価格は同額だったかといえば、大きく異なりました。1枚は、8万円。もう一枚は、14万円。全く同じコインですが、この違い。この違いが生じた主な理由は、スラブです。1枚は裸コイン、もう一枚はスラブ入りだったのです。
なぜ、スラブに入っているというだけで、こんなに差がついてしまったのでしょうか。
それはおそらく、スラブ入りの方が売買しやすいからでしょう。裸コインと比べて、スラブ入りは初心者でも扱いやすいです。そして、鑑定されているので、数字を見ればコインのグレード(格付)が分かります。
コレクターのような審美眼も取り扱い能力も不要です。このため、特に初心者や投資目的の人を中心に人気を集めています。
(株)ダルマでは、裸コインを多数売っています。そこで、裸コインを買って、スラブに入れるようにダルマで手続きし、スラブへの封入が完了したら、売却。この手続きを経るだけで、自動的に儲かってしまうことに。
(人気がイマイチのコインは、スラブに入れてもやはりイマイチです。人気コインを選びます。)
注意点
ただし、注意点があります。
一つは、鑑定に出してから手元に戻るまでに、最大1年程度を要することです。二つ目は、おかしな鑑定をされてしまう可能性がわずかにあることです。想定以上に高い評価をされた場合は、ラッキーです。その逆の場合は、ガッカリです。
この辺は、ややギャンブル的要素があります。しかし、想定通りの評価でスラブに封入できれば、裸コインよりも売りやすいことは確かです。その分だけ、高く売りやすくなります。
なお、裸で買ってスラブに入れれば良いのですから、長期保有で有効に機能します。急いで売るつもりはないのですから、買って、ゆっくりとスラブに入れて、何年か経ってから売却です。
基本は長期保有
短期売買で一気に稼ぐ方法は、ワクワクします。実際のところ楽しいですが、王道は長期保有です。年単位でじっくりと保有しましょう。その間、時々コインを眺めて楽しんでください。