マルタと聞いて思い出すのは、マルタ共和国でしょうか。それともマルタ騎士団でしょうか。今回は、マルタ騎士団のグランドマスター、エマヌエル・ピント(Emmanuel Pinto、在位:1741年~1773年)の4ゼッチーニ金貨を概観します。
金貨の外観
当時のマルタ騎士団はどういう機関だったのか、コインの外観から多少は分かります。
まず、金貨を発行していますから、国家同様の強い権力を持っていたことでしょう。また、エマヌエル・ピントの人物像と氏名が表面に大きく描かれていますから、彼は国王・元首という位置づけだったはずです。コインの裏面に王冠が描かれていることからも、その様子が分かります。
その他、イギリスやフランスのコインに見られる「神の寵愛を受けて~」の文言がないことから、その地位は世襲制でなく、さらに、紋章に騎士団以外のデザインが含まれているので、どこかの高貴な身分の出身であることも分かります。
画像引用:Numista
コインのスペック
- 額面:4ゼッチーニ
- 年号:1742年
- 材料:金
- 直径:30mm
- 重量:14.06g
エマヌエル・ピント
エマヌエル・ピント(Emanuel Pinto)はポルトガルの貴族で、1741年に第68代のグランドマスター(総長)に選ばれました。様々な建築物を建造し、財政難の原因となった一方で、建造物は現在も残されています。
下はカスティーリャ騎士館(Auberge de Castille)で、現在はマルタ共和国の首相官邸として使用されています。
画像引用:Wikipedia
また、イエズス会宣教師をマルタ島から追放したことでも知られています。
マルタとは
コインのデザインを確認する前に、マルタとは何か?を簡潔に見ていきます。マルタ騎士団の元々の名前は聖ヨハネ騎士団といい、エルサレムで設立されました。
彼らは、ヨーロッパから聖地エルサレムへやってくる巡礼者の道案内や治療にあたっていました。巡礼者の安全と健康を守るには医療だけでなく武力も必要ですから、医療を重視しつつも次第に武力中心の団体となり、オスマン帝国との戦いを繰り広げました。
巨大なオスマン帝国に対して騎士団は小規模ですから、精鋭部隊であっても勝利し続けるのは難しく、下の地図の通り拠点を次第に西へ移していきました。最初はエルサレム、次にキプロス、ロードス島を経てマルタです。
このマルタの地名を受けて、マルタ騎士団と呼ばれるようになりました。マルタ島を拠点にしたのは、1530年から1798年までです。
マルタ騎士団のその後とマルタ共和国
1798年、ナポレオンがマルタ島に侵攻しました。マルタは地中海の要衝ですから、ナポレオンがエジプト遠征する際に占領したのです。こうしてマルタ騎士団はマルタ島を追われ、ローマに拠点を移しました。
拠点をローマに置いたとはいえ、以前と違って領土を持っていません。しかし、今でも国家として認められていますから不思議な状態です。ローマの一部で治外法権を認められ、独自のパスポート等もあり、世界で110か国ほどが国家承認しています(日米は国家承認していません)。
領土がないのに国家と認められている理由は、マルタ騎士団が果たしてきた役割が大きかったからでしょう。巡礼者を保護し、治療し、武力で彼らを守り、ヨーロッパの盾となってオスマン帝国と戦ってきたという歴史です。
ちなみに、マルタ島はその後イギリスの支配下に収まり、自治を経て1964年にマルタ共和国として独立しました。よって、マルタ共和国とマルタ騎士団は別の機関です。マルタ騎士団はマルタ共和国と国交を結んでおり、マルタ共和国内の一部で治外法権を認められています。
コインのデザイン
表面のデザイン
表面には、エマヌエル・ピントの肖像が大きく描かれています。周囲の文字は「F EMMANUEL PINTO M M」で、「Manuel Pinto de Fonseca, Magnus Magister」(エマヌエル・ピント、騎士団長)という意味です。
裏面のデザイン
裏の面には、中心に紋章と王冠が描かれ、周囲にラテン語で文字が書いてあります。文字は「Hospitalis et Sancti Sepulcri Hierusalem」、日本語で聖ヨハネ騎士団です。
紋章の中には2つのデザインがあり、十字になっている側がマルタ騎士団、丸い形が描いてある側がピント家の紋章です。
コインで色を表現するには
なお、やや余談になりますが、コインには凹凸でデザインを刻印することはできても、当時の技術では着色できません。そこで、独特のデザインで色を表現します。下はマルタ騎士団の旗で、赤地に白の十字となっています。
画像引用:マルタ騎士団
コインの紋章部分を見ますと、赤地の部分に縦線がたくさん書いてあります。コインの世界では、赤をこのように表現します。何も刻印していない部分は白を意味します。
マルタの情報が欲しいなら
マルタは紀元前の昔から栄え、様々な場面で重要拠点として重要視されてきました。マルタ共和国はもちろん、現代のマルタ騎士団もコインを発行していますから、両国のコインを紹介していこうと考えています。
なお、マルタの情報が欲しいなと思ったら、こちらをどうぞ。様々な情報を得られます。