アンティークコインを眺めていると、コインに並んでメダルがあることに気づくかもしれません。そして、この2つは似ているものの、価格はメダルの方が安いことが分かります。すなわち、コインとメダルは相場が異なり、それぞれの基準で価格が形成されていることが分かります。
そこで、コインとメダルの違いについて確認しましょう。
コインとメダルの特徴
下の特徴は、すべてのコインやメダルに該当するわけではありません。しかし、概ね当てはまります。
コインの場合
コインの特徴
- 通貨である。
- 流通目的で作られたため、製造数が多い。
- 額面金額が書いてある。
- 発行年が書いてある。
- 積み重ねられるよう、デザインの凹凸が小さめ。
最後の特徴は、下の絵のイメージです。コインはお金ですから、積み重ねたり梱包したりするでしょう。そこで、積み重ねても安定するように、デザインも工夫されます。
なお、コインであっても、製造数が極端に少ないことがありますし、額面金額を書いていない場合もあります。そこで、上の特徴は、コインの一般的な傾向ということになります。
メダルの場合
一方、メダルの特徴は、以下の通りです。
メダルの特徴
- 何かを記念して作られる。
- 通貨ではない。
- 製造枚数が少ない。
- 通貨でないため、額面金額は書かれていない。
- 凹凸が大きい。
最後の特徴の「凹凸が大きい」ですが、メダルは、コインのように積み重ねて使いません。関係者に1枚ずつ配ります。そこで、積み重ねることを考慮せずに、凹凸がはっきりした鮮やかなデザインで作られる場合があります。
分かりやすい例として、下のメダルをご覧ください。ヴェインフェルデン射撃祭記念メダルです。正面から撮影しているのに、人物が大きく盛り上がっている様子がはっきりと分かります。すなわち、重ねる用途は想定されていません。
画像提供:(株)ダルマ
なお、メダルの場合も、これらの特徴に該当しない場合があります。例えば、一般のコインと同様に、支払い手段として流通することがあります。
区別はあいまい
コインとメダルには以上の差があるものの、両者の区別はあいまいです。コイン業者でメダルが販売されていることも、このあいまいさの例といえるかもしれません。その他、3つの例を紹介します。
例1:ウルトラハイレリーフ
ハイレリーフとは、デザインの凹凸を際立たせたコインを指します。ウルトラハイレリーフとは、ハイレリーフよりもさらに刻印の凹凸が大きく作られています。
下のコインは、米国の20ドル金貨です。正面の画像ですから、刻印の盛り上がりがやや分かりづらいかもしれません。このコインを重ねるとグラグラして不安定ですから、コインとして使うことを全く想定していないでしょう。すなわち、コインですがメダルの要素を持っています。
コインのスペック
- 発行国:アメリカ合衆国
- 額面:20ドル
- 年号:2009年
- グレード:FDC
- 材料:金
例2:ソーコールドテーラー
ソーコールドテーラー(so called taler)とは、「メダルだが、規格がテーラー銀貨と同じだったため、テーラー銀貨として流通した」というメダルを指します。
下のソーコールドテーラーは、1827年にスイスのツーク(Zug)で発行されました。スイス射撃祭記念メダルです。当時の都市風景がはっきりと刻印されています。通貨でなくメダルとして発行されましたので、発行枚数は150枚。枚数が極端に少ないのが特徴です。
メダルとしての美しさとコインとしての特徴を同時に備え、しかも発行枚数がわずかで保存状態も良好という、素晴らしいメダルです。
コインのスペック
- 発行国:スイス
- 額面:メダル
- 年号:1827年
- グレード:EF+
- 材料:銀
例3:刻印の向き
刻印の向きとは、具体的にはコインローテーション(coin rotation)とメダルローテーション(medal rotation)の違いです。具体的に見ていきましょう。コインとメダルでは、この違いがゴチャゴチャになっています。
コインローテーション
コインを正面から見て、垂直方向を軸にして半回転させます。上の図のイメージです。すると、裏側の絵が逆さまになる場合があります(上の絵で、右のコインの円マークが逆さまになっています)。この刻印方法を「コインローテーション」または「コインアラインメント(coin alignment)」と呼びます。
コインカタログ等では、コインローテーションを「↑↓」と表現します(上向きの矢印と下向きの矢印)。この記号を見れば、刻印の方向が表と裏で逆になっていることが簡単に分かります。
メダルローテーション
コインを正面から見て、垂直方向を軸にして半回転させます。上の図のイメージです。すると、裏側の絵が逆さまにならない場合があります。この刻印方法を「メダルローテーション」または「メダルアラインメント(medal alignment)」と呼びます。
コインカタログ等では、メダルローテーションを「↑↑」と表現します(上向きの矢印が2本)。この記号を見れば、刻印の方向が表と裏で同じであることが簡単に分かります。
両者は混在
では、コインはコインローテーションで作られ、メダルはメダルローテーションで作られているでしょうか。実際には混在していて、区別は存在しないように見えます。すなわち、メダルローテーションで作られたコインが数多く存在します。
ここで、疑問に感じるかもしれません。なぜ、昔のコインはコインローテーションで作ったのか?です。表と裏でわざわざ逆方向に刻印するのは、自然でないように感じます。この理由は、コインの持ち方で分かります。
コインを持ってデザインを見るとき、どのようにコインを持つでしょうか。手の平に置く方法でも良いですが、もう片方の手を使ってひっくり返さなければなりません。そこで、下の絵のように持ちます。
そして裏のデザインを見たいときは、「コインを持ったまま手を縦方向に半回転させて、人差し指を親指の下に持ってきます」。すると、コインローテーションならば、デザインが逆さまになりません。文章で書くと理解しづらいので、実際にコインを持ってやってみてください。
現代の10円玉はメダルローテーションです。よって、この方法で裏返しにすると、平等院鳳凰堂の絵が上下逆さまになります。
では、現代の人々はこのようにコインを持ってデザインを確認するでしょうか。そういう人もいるでしょうが、メダルローテーションが良いという需要はほとんどないのでは?と思います。よって、刻印方法が混在することになったのでしょう。
メダルの方が安い理由は?
最後に、メダルの方が全般的にやや安い理由です。この回答はおそらく一つで、コレクターの人数がコインに比べて少ないことが原因でしょう。
メダルはコインよりも刻印の自由度が高く、その分だけ独創的なデザインを作ることができます。しかし、どれだけ独創的でも、需要が限られていれば価格の上昇力がやや劣ります。メダルの評価がコイン並みになるには、コレクター層の拡大が必要でしょう。
なお、この「コインに比べてやや安い」という傾向は、コレクションするにはとてもありがたいです。コインよりも独創的なデザイン、発行枚数が少なくて貴重、このようなメダルを買いやすくなります。そして、コレクションしたら、世の中の注目がメダルに集まる日を楽しみにして待ちます。