1601年~1800年 その他金属 イギリス

イギリスのトークン(ブリストルグラス)

1700年代後半、イギリスは産業革命の時代であると同時に、貨幣については混乱の時代でもありました。結果、各地で様々なトークン(代用貨幣)が発行されました。その種類は、実に2万種類ともいわれます。

この背景等につきましては、下の記事で紹介しています。

車輪銭
イギリスの通貨危機とトークン・車輪銭(18世紀~19世紀初め)

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この記事では、ブリストルグラスを描いたトークンを紹介します。

深い青、ブリストルグラス

イギリスの産業革命時代、港町ブリストルは貿易と工業が盛んになりました。中でも、ガラス製品は「ブリストル・ブルー」として有名です。下の写真は、1800年代初めのブリストルグラスです。深い青色が特徴で人気を博し、世界中に輸出されました。

ブリストルグラス

(引用:Aintuques Atlas)。

ここで、ブリストルの位置を確認しましょう。下の地図の赤矢印部分です。イギリスの南部、入り江になっている部分にあることが分かります。

ブリストルの地図

画像引用:Google マップ

ブリストルとその周辺都市では、ガラスに加えて様々な工業製品が作られました。この地域でガラス製品が多く作られたのには、理由があります。近隣で、ガラスの材料(珪砂)と石炭を産出していたのです。ガラス製品を作る条件が揃っていました。

そして、ブリストルの港から、海外へと輸出されていきました。

コインのデザイン

では、コインのデザインを確認しましょう。最初に、ガラス工場が描いてある面です。

トークン(ブリストル)

コインのスペック

  • 額面:1/2 ペニー
  • 年号:18世紀ごろ
  • 材料:銅
  • 直径:29mm
  • グレード:EF

何やら、台形の物体があります。これはガラス工場です。そして、横に細長い四角が、たくさん積み重なっています。これは、レンガ造りを表しています。それにしても、奇妙な形です。一般的な工場のイメージと大きく異なります。

この形は、通称「グラス・コーン(glass corn)」です。ソフトクリームを食べるときに使うコーンを、逆さまにしたような形です。

この形になっている理由は、燃料の石炭にあります。産業革命当時、主力燃料は石炭でした。しかし、当時の技術では、安定した火力を得るのが難しい燃料でもありました。そこで、煙突や設備の再設計をした結果、このような形になりました。

なお、この工場の大きさについて、下の絵で確認できます。

ブリストル

(引用:Bristol Museums Galleries Archives

絵の中心や右あたりに、大きな三角形の煙突があります。これがガラス工場です。周囲の建物と比較しますと、いかに大きいかが分かります。なお、上の絵の引用元サイトに、詩人のアレクサンダー・ポープによるブリストルの町の描写が掲載されています。趣旨は、以下の通りです。

「20もの奇妙なピラミッドが、町中で煙を吐いている。その煙は途切れることがなく、町は煙で暗く、そして汚い。ほとんどの住民は、有害な気体によって息が詰まっているかのようだ。」

公害対策が進む前の話ですから、住民は大変だったことでしょう。

このガラス工業、18世紀には大盛況だったのですが、19世紀になると、戦争や景気変動などの影響を受けて急速に衰退します。そして、20世紀初めには、すべてのガラス工場が消えてしまいました。

反対側のデザイン

次に、逆の面のデザインを確認しましょう。お城と船が描いてあります。これは、ブリストルの紋章です。

トークン(ブリストル)

ブリストルの紋章は、デザインが時とともに変化しています。しかし、船と城の組み合わせは継続しています。時代をさかのぼると、1300年代まで同じ構図です。

下は、ブリストルの現在の紋章です。真ん中の盾部分に、上のコインと同じ構図のデザインが描かれています。

ブリストル市の紋章

画像引用:Wikipedia

なお、お城は、ノルマンディー公ウィリアムが作った城です。ノルマンディー公ウィリアムは、1066年にイングランドに攻め込み、ノルマンディー王朝を始めました。また、船は、ブリストルがいかに船を重視してきたか、船がどれほど町の発展のために重要だったかを示しています。

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